私の茶器セット 出野 尚子さん
2024年10月1日お茶に出会い、お茶が人生の大切な存在になると、茶葉を浸す茶器や、お茶の色が美しく見える杯、お茶の周りのいろいろなものを揃えたくなる。
お茶でもしようか、といって棚の上にある丸い木の入れ物を大事に抱えてテーブルの上に広げたい。風の気持ち良い鮮やかな秋の山へ、籠につめた器と茶葉を持って出かけたい。
お茶の人は皆、時間を大切に取り扱う気がする。慌ただしい日常のなかでお茶を淹れて飲むことは、その時間を掬い取って目の前に置き直して愛でる行為にも想える。
だからお茶の人は急がない。茶器を揃えるにも、お茶に出会うにも、のんびり時間をかけて、縁のあるものを少しづつ集めるのが楽しみの一つだから。
そんなお茶の人たちの揃える茶器セットをご紹介する企画です。しかも買えちゃう。なんたる皮肉。でも、まずはまるっと欲しいその気持ちも痛いほどわかるのです・・・!
お茶を仕事にしていると、たまに出会う「お茶な人」。お茶を飲んでいるからなのか、そもそもお茶のような人だったのか、わからないけどお茶と一体になっているような、穏やかであたたかい人がいます。そんなお茶な人をお二方、ご紹介します。
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一人目は出野尚子さん。
はじめてお会いした時から、彼女のまとう空気と彼女の淹れるお茶にメロメロになってしまいました。出会いは7年前。今回出店もしてくださっている「宮崎茶房」さんで出会いました。どんな話をしたのかぼんやりとしか覚えていませんが、お茶のような人だな〜という印象が記憶に残っています。
出野
私は鹿児島で生まれ児童教育を学び熊本へ就職で来ました。いろんなことがしたいと思っていたので、日中カフェや古着屋で働きながら夜間保育所に勤務していたの。そのうちに知り合いの中国人の方が中国茶の茶房を始めるから人を探していると聞いて。家も近所だったし、面白そう!と思って働き始めて。そこで中国茶を飲み始めて。四川の方だったから、緑茶が多かったのだけど、楽しい美味しい〜と夢中に。
長谷川
保育士さんだったこと知りませんでした!びっくり。お茶のお店で働かれたのはそのお店が始まりだったんですね!中国茶を出しているお店ってよくあるけど、そこからお茶にそんなにしっかりハマっていくのは珍しい印象!そのあとは他のお店で勉強をされたんですか?
出野
中国茶は、お店で働いたのはそこが最後で。オーナーがお茶が好きで詳しかったから毎月お店でお茶の教室とかを開いていたんですが、そのうち今月は中国に帰るから尚子よろしく〜みたいなことが起きだして。私はお茶好きだったけれど、全体としてはまだよく知らないし、そこで自分で茶藝とか中国茶の勉強をはじめました。当時流行ってたんですよね。試験とかコースとか色々あって。その時になんとなく、中国茶のぼんやりした全体図を勉強したかな。でもそのコースや試験の勉強で全てを学んだ、というよりも、何かをするきっかけ、自信をつけて背中を押してもらいたかったという方が大きいかもしれません。
長谷川
びっくり。てっきりどこか専門店で働かれていたのかと思っていました。そのお店の中国茶教室が、教えたり、会を開いたりすることのきっかけになったんですか?
出野
そうですね、そのお店を離れて今度は友人と地域のコミュニティセンターを借りて料理やお菓子をだしてお茶を淹れて、ホワイトボードに中国の地図を書いて、ここのお茶です〜とか言って。和室に長机を並べて白い布をかけて。雰囲気が良いわけではないのでその分美味しいもの出さなきゃ、とはりきっていました(笑)だから、その時すっごく人気だったと思います。
長谷川
今の尚子さんからは想像できないです、ホワイトボード。行ってみたかったな〜。幻の会ですね。今はtaishoji(熊本市内にある細川家菩提寺跡、現在は教室や展示などのイベントスペース)でお教室や会を定期的に開かれていると思いますが、それはいつ頃から始めたんですか?
出野
確か2014年だったから、ちょうど10年前かな。とにかく美味しい物が好きだから、お茶と、美味しいものをせっかくだから一緒に食べたいでしょう。振り返ると、いつも友人が美味しいものを作ってくれて、その隣でお茶を淹れていますね。
長谷川
美味しいもの、いいですよねぇ。今は中国の産地などにも頻繁に行かれているように見えますが、産地に足を運ぶことはその頃から?
出野
中国の産地に行き始めたのは、最近です。ここ5〜6年かな。私はプーアール茶が好きで。プーアールばっかり飲んでいるな、と気付いて雲南省に行かなきゃ、と思って。中国へは上海や江蘇省に行ったことがあったけれど、産地を目指して行ったのは雲南省が始まりです。
長谷川
尚子さん、雲南とプーアールのイメージがありますね。最近よく飲んでいたり、お気に入りのお茶はありますか?
出野
最近・・・私本当に色々なお茶をうつろうつろに飲むの。今日、とか、今とか。気分で飲みたい物が変わるから。体調や天気の影響も大きいですよね。昔は茶会をする時に、今回はこのお茶を淹れよう、と事前に決めてから準備していたけど、最近は今日はこれを淹れよう、って直前に選んで「今、その時に飲みたいもの」を淹れるようにしています。
長谷川
お茶は選ぶことも楽しいですもんね。OCHA PARKの出店者さんは日本の生産者さんがメインなんですが、今年飲んだ日本のお茶で印象的なものはありましたか?
出野
宮崎茶房さんはもう毎年飲んでいるし、いうまでもないんだけれど・・・今年は吉田山大茶会(京都で行われるイベント)で買った「みとちゃ」さんの白茶が美味しかったなぁ。なんだったかな、たかちほかな。今の時期はもう青く感じるかもしれないけど夏はしみじみ、美味しかったな。それから門内さん(「岩永製茶園」)の紅茶、雲海も好き。「お茶のカジハラ」さんもそうだけど、彼らのお茶は甘みや香りが濃密で、厚みのある味ですよね。初心者の方も美味しく淹れやすいお茶だと思います。
長谷川
みとちゃさんの白茶は、酸化発酵も割と軽めに仕上がっていて白茶らしい青さがありますもんね。もし今回も白茶が出ていたら今の時期に買っておいて、来年までお家で置いておいても良さそう。門内さん(岩永製茶園)とカジハラさんの紅茶については、とってもわかります。甘くてぎゅっとしていて、仕上げの丁寧さとか誇りを感じますよね。
出野
そうそう。品種の特性をしっかり出そう・・!という気持ちを感じる。それから先日栗のお菓子と一緒に合わせた「東坂茶園」さんの冬焙じも美味しかった。焚き火みたいな、秋のはじまりを感じる味でした。
長谷川
東坂さんのほうじ茶シリーズ、美味しいですよね。ここ数日急に秋めいてきて、茶色のお茶が輝きはじめましたね。今回選んでいただいた茶器のお話を伺ってもいいですか?
出野
もちろん。今回はまずこの竹のピクニックバスケットを見つけました。とにかく、とっても可愛い。サイズも良くて。鹿児島で見つけたバスケットです。これに何を入れようかな、と想いを巡らせました。
長谷川
確かに可愛い、良いサイズ!
出野
秋だから、外でお茶をするにも良い季節でしょう。それで茶器を包む袋と、刺子の布をつけました。これを広げたら、どこでもお茶が飲めるように。この袋は友人が作っていて、ここに好きな茶器を入れてもらえたらと思って。蓋碗でも茶壺でも。何か合わせようと思ったのだけど、なんだかこのセットじゃないと、と思えるようなしっくりくるものがなくて。無理やり合わせるのは嫌だったから、持っているものと合わせてもらえたらいいかな、と思って。
長谷川
尚子さんらしい理由で素敵です。このお包は本当に便利ですよね!刺子の布も可愛らしい。どちらのものですか?
出野
布は今年訪れた、中国貴州省の布市場で見つけました。藍染の色も清潔で素敵です。茶杯は中国広東省、こちらはscene佐藤さんに金継ぎをしてもらいますます美しくなりました。いずれも古い物。
長谷川
いいですね。このカゴをこのまま持って出掛けたいです。尚子さんならこの茶杯でどんなお茶を飲みたいですか?
出野
茶色く香ばしいお茶が飲みたい、紅茶かな。
長谷川
お話しありがとうございました!今回は日程の都合でOCHA PARK当日のご参加は叶いませんでしたが、次回があればまたぜひご一緒していただけたら嬉しいです!またどこかでお茶をご一緒できる日を楽しみにしています!
chanowa 出野尚子(いでのなおこ)
中国茶店勤務を経て、熊本を中心に教室や茶会を主催。現在は九州の茶農家を巡りその土地土地のお茶を紹介する活動も行なっている。