私の茶器セット 孟 繁林さん
2024年10月1日お茶に出会い、お茶が人生の大切な存在になると、茶葉を浸す茶器や、お茶の色が美しく見える杯、お茶の周りのいろいろなものを揃えたくなる。
お茶でもしようか、といって棚の上にある丸い木の入れ物を大事に抱えてテーブルの上に広げたい。風の気持ち良い鮮やかな秋の山へ、籠につめた器と茶葉を持って出かけたい。
お茶の人は皆、時間を大切に取り扱う気がする。慌ただしい日常のなかでお茶を淹れて飲むことは、その時間を掬い取って目の前に置き直して愛でる行為にも想える。
だからお茶の人は急がない。茶器を揃えるにも、お茶に出会うにも、のんびり時間をかけて、縁のあるものを少しづつ集めるのが楽しみの一つだから。
そんなお茶の人たちの揃える茶器セットをご紹介する企画です。しかも買えちゃう。なんたる皮肉。でも、まずはまるっと欲しいその気持ちも痛いほどわかるのです・・・!
お茶を仕事にしていると、たまに出会う「お茶な人」。お茶を飲んでいるからなのか、そもそもお茶のような人だったのか、わからないけどお茶と一体になっているような、穏やかであたたかい人がいます。そんなお茶な人をお二方、ご紹介します。
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お二人目は、leafmania 店主の孟 繁林さんです。
東京都入谷で2019年よりleafmaniaとしてお店をオープン、昨年二号店を代々木上原にオープンされました。2020年にはじめてお店に伺って以来、お店に通わせていただいていました。孟さんのお話しをゆっくりお伺いするのは初めてのことです。
長谷川
今日はよろしくお願いします。いつも温かく受け入れてくださってありがとうございます。私にとって孟さんは謎に満ちた存在で・・・!お聞きしたいことたくさんあるんですが、少しづつ。元々、孟さんは茶器のお店をされたかったんですか?
孟
よろしくお願いします。そうですね、私は中国の東北の方の出身で、留学で日本に来ました。大学を出て一度中国でも働いて、その後また日本の大学に来ました。卒業後にどこかで就職しようと考えていたんですが、入りたいと思う会社がなくて。それなら自分の好きなことをしたいな、と思って。茶器のお店がしたいな、と。
長谷川
そうなんですか?前職で似たようなことをされていたとかではなく、突然!元々お茶はお好きだったんですか?
孟
そうですね。私の出身地はかなり北の方でお茶を飲む習慣もないんです。北海道より15-20度くらい寒い地域。だから全くお茶は飲んでいませんでした。大学で北京に行って、そこでお茶を飲みはじめました。
長谷川
中国にお茶を飲む習慣がないエリアがあるんですね・・・!衝撃。北京でお茶を飲んでからが始まりなんですね。
孟
そうですね、最初はよくわからなかったけど飲んでいるうちにどんどん好きになっていって。休みの日に産地にお茶を買いに行きがてら訪れたりしていました。
長谷川
お茶を飲みはじめて初期のころはどんなお茶を好んでいましたか?お茶変遷があれば知りたいです。
孟
最初は台湾の梨山茶が清らかで華やかで美味しいと思いました。烏龍茶系、どんどん単叢や岩茶に。最初は日本茶にも興味があって、色々飲んだり勉強したりしてみたんですけど。日本茶インストラクターもとったりして。茶畑、静岡や鹿児島の産地にも行ってみました。でも、結局自分の味の好みが単叢や烏龍茶系が好きだったので、それで日本茶はそこで止まってしまいました。
長谷川
えぇ!!衝撃が続きます。孟さんから日本茶インストラクターというワードが出てくるとは。でも日本はそうですよね、圧倒的に緑茶ですもんね。確かに孟さんのところでいただくお茶は温かい印象のものが多い気がします。中国の緑茶もあまり飲まないんですか?
孟
そうですね、中国の緑茶もたまに美味しいなと思うこともありますが、あまり飲みません。私は一度飲んですぐにそのお茶のことがわかるわけではなくて、何度も何度も同じお茶を飲んで、1年や2年経ってからやっとそのお茶のことが理解できるので、長い時間が必要です。その意味で焙煎烏龍茶や白茶は時間に耐えられるという点でも自分に合っていると思います。緑茶は、長い時間かけて、このお茶が好きだと思っても待ってくれないので。
長谷川
すごく興味深い視点です。確かに緑茶や焙煎していない烏龍茶は旬やその時、若さや儚さを楽しむお茶で、焙煎烏龍茶や紅茶は時間と共に変化を楽しむお茶であるとも言えますよね。おもしろいです。
孟
そうですね。それで結局お茶も買い付けとか、仕事にするのがとても難しく感じました。
長谷川
なるほど、それでお茶を販売するのをやめられたんですか?(孟さんはleafmaniaで以前は茶葉の販売もされていた)
孟
そうですね、それも一つの理由ですが、それよりはお茶について、作っている人の美意識について自分が一緒に仕事をしたいと強く思う人を探すことが難しかったこともあります。たまたまそのお茶が美味しいということよりも、どんな人がどういった意識で作っているか、考え方が自分と一致しているか、そんなことも大切で、そこがなかなか難しいです。
長谷川
そうですね、仕事にするって難しいことですよね。今回選んで頂いた茶器セットについて聞かせてください。3組、お選び頂きました。それぞれ一人の作家さんをフューチャーして選んでくださっていますね。
孟
そうですね、まず一人目は曹長絃さんです。韓国の作家さんです。今年初めて個展をしていただきました。日本では初めての個展でした。古いものか新しいものか、よくわからないこの雰囲気がとても魅力的だと思っています。
長谷川
曹さんは茶器だけを作っていらっしゃるんですか?
孟
そうです。今は茶器だけ作っています。元々アメリカで現代アートを勉強されていたんですが、お父様が青磁の作家さんで。お父様の看病のため韓国に戻られて始められたようです。
長谷川
そうなんですね。でも日本の茶道、利休さんの好みにもとっても合いそうな作風ですよね。どこか侘しさを感じます。土も特徴的だし、シンプルだけど絵が描かれたりしていて面白いです。
孟
元々はもう少しピカピカの作品を作られていたけど、お茶の道具としてはもう少し素朴な方が馴染むのではないか、という意見があったようでどんどん素朴な作風に変わっていったようです。
長谷川
確かに、古いものなどとも合わせやすそうですね。
孟
こちらは豊増一雄さんの作品です。豊増さんの作品はわりと昔から日常的にずっとよく使っている茶器です。豊増さんは見た目だけではなくて考え方もとても尊敬している方です。昔の人たちが何を考えてこういった形にしたのか、そこに現代の考え方をプラスして出来上がった質感がとても素敵だと思います。例えば、この作品も薪窯で作られているんですけど。
長谷川
これ薪窯なんですか!?なんで!全く薪で焼いているように見えないです
孟
そうですよね、普通は誰も薪で焼いていると気がつかないと思います。昔は薪しか選択肢がなくて、薪を使った上でそこに火の気配を感じさせないように綺麗に焼こうとして作っていたと思います。それが現代では薪窯を使うのであれば薪窯らしさを求めがちですが、
豊増さんは昔の人と同様に薪を使いながら所謂薪らしさのようなものは出さずに焼かれています。お茶にも通ずることかもしれませんが、炭火で仕上げたお茶から炭火の香りが必ずする必要はないと思っていて。
長谷川
なるほど、露骨に現れる部分ではないところで、炭火や薪火の意味を求めているということなんですね。お茶を淹れる時のお湯の沸かし方も電気かガスだと、明らかな目に見える違いはなくても何か違う、ということがありますもんね。外からは見えないけれど、薪窯で仕上げる意味が豊増さんの中にはあって、そこが孟さんの意味する美意識の部分なんですかね。
孟
そうですね。そういったところに惹かれています。説明的ではないけれど、そこにある意思や意図を魅力に感じます。
孟
最後は村田匠也さんです。彼の作品は、ろくろが好きです。生き生きしている感じ。最近はお花とか、茶器に絵を描いていたりしてそれも面白いです。普通は素焼きをしてから線を引きますが、彼の場合は素焼きをする前にヘラで描いていて、太くてぼんやり、少し抽象画のような雰囲気です。今回選んでいるものにはありませんが。
長谷川
とっても薄くてざらつきも一切なくて、口当たりがとにかく良さそうな茶器ですね。繊細で女性的な印象で、どんな方なんだろうといつも思っています。
孟
そうですね、とても繊細な作品ですよね。元々ご実家も代々陶芸をされていて、お祖父様は煎茶器を作られていました。村田さんは作品とご本人の印象がそのままですよ。作風に個性が表れていると思います。
長谷川
そうなんですね。孟さんの個人的なお話や、それぞれの作家さんへの想いを聞かせていただけて興味深かったです。美味しいお茶もごちそうさまでした。またぜひお茶を飲ませてください。